青い流星を見守る記録

色んな調べ物をした記録や、メディアの記録を記しておくブログ…でしたが完全に雑記と化している気がします。残念。

TEAM NACS「悪童」感想MEMO

悪童のDVDが発売された昨年に、鑑賞してその直後に私が書いてあったメモのような悪童感想です。

せっかくなので掲載(笑)

※ネタバレになる部分もあるので未鑑賞の方は自己責任でお願いします。

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TEAM NACS以外の舞台は、NHKで放送されたものいくつか、DVDで劇団新感線の「阿修羅城の瞳」を、実際の舞台では末満健一さんの「有毒少年」を、そして学校にまわってくる劇団さんや大衆演劇、それを見ただけなので、そういう人間が言っているとして拙くて阿呆な感想なのはご勘弁いただきたい。


すごいものを見た。見せられた。


それが感想。


私はやっぱりこういう謎がすべてばらばらばらばらーー!!ってつながっていくのが好きみたいだ。
木更津キャッツアイみたいな。(そういえばクドカンも舞台の脚本家だったっけ。)
作品についておもしろい!と感じることが出来たのは古沢さんの手腕だと思う。「舞台」らしい芝居であり、次の展開が読めないのに観客を突き放さない。ちゃんとついてこさせることのできる脚本。それが素晴らしい。


NACSといえばこれ!という笑いは排除されている。でもそれぞれが演じるキャラクターらしい笑いはしっかりとつくってある。そこもすごいと思った。
役者:TEAM NACSのすごさというものはその個性的なキャラクターを演じていること。それだけでなく、この舞台が持っている全体の雰囲気が一気に変貌していくところに対応してそのキャラクターの印象も変わってしまうということだ。どこかおかしいやつらと感じさせるところ、明るくてバカなやつらだと感じさせるところ、狂気と恐ろしさを感じさせるところ、苦悩を吐露する人間らしいところ、5本の曲線が綺麗な距離を保ちながら同じ弧を描いて上ったり下りたりしているような感覚だった。

舞台の雰囲気は、音楽やセットや照明もそうだけれど役者がつくっていくものだ。一番大きな舞台装置が役者だと思う。その役者が個々自由に動き回っているようでどんどん舞台をつくっていって引き込んでいく。それがすごかった。そこを見終わった後初めて意識させられた。


まだメイキングを見ていないので、ナックスがどのように脚本と関わったのかはわからないのだけれど、WARRIORや下荒井兄弟のスプリングハズカムでは脚本から5人全員が意見を出し合いながらつくっていっていた。だから5人でつくっていった5人の舞台なのでお互いを良くしっているが故の内輪ネタというものが入ってくる。それは彼らが愛するファンに向けてのサービスなのだけれど、実際その内輪ネタを「嫌い」と言っている人もいるらしい。
まぁそれはどうでもいいとして、今回はそれがない。いい意味でない。
客観的に脚本家古沢さんがとらえた演じてほしいキャラクターと脚本を彼らが「舞台の上でかたちにしていく」中で5人自体の個性は埋没し、その代わりにキャラクターが自然に動いて立ち上がってくる。
ここまでそれぞれが引き出せるものなのだな、と古沢さん、そして演出のマギーさんにも感動してしまった。

NACSの個性が埋没していると言ったけれども、そのキャラクターにはNACSがとことん活かされていると思う。
紺ちゃんには、森崎さんのリーダーとしての責任感や真面目な家庭を築いているというところ。
巻くんには、安田さんの実は誰よりネガティブで、だけどおもしろいことはどんどん首をつっこむところ。
チャックには、戸次さんの場をひっかきまわして、ちょっとバカで、相手の気持ちを考えるより先に行動してしまうところ、実は本人無意識で愛されているところ。
エロッチには、大泉さんのもつ胡散臭さとしゃべりで場をひっぱっていくところ5人の中の誰より勝負をしているところ。
西くんには、音尾さんの自信のなさ、でもいつもその場を作り出す原因は本人にあるところ。
その活かされたキャラクターを全力で演じることで、新しい「NACSの舞台」というものが見えたんだ。

このストーリーはラーメンズの「採集」のような雰囲気を当初は見せている。


最初は一つのなぞ「なぜチャックが立てこもったのか」を解いていく。ここでは「よくある復讐ものなのか?」と思う。チャックがいじめられていた可哀想な人物にも思え、しかしどんどん奇人にも見えてくる。紺ちゃんは責任感のあるリーダーに、巻くんはつっけんどんなやり手社長に、エロッチはひょうひょうとした芸術家に、西くんは真面目で少し気弱そうな役人さんに見えている。


そしてチャックが病気かもしれないとなると「あれ?感動ものなのか?」という疑問が浮かび、しかしその嘘につきあわされるコメディのようになってくる。物語の中でここが二番目にあかるいあたりだと思う。(一番明るいのはラスト)


すると今度は顧問だった教師鴨田の話が出る。「鴨田暗殺計画」なんて言葉が出始めてどこかの青年誌で連載している絵柄の怖い漫画のような趣がでてくる。そしてそれにひっぱられてここにはいないとん平のことが語られ出す。とん平は自殺した?こうなってくるとドラマの「人間・失格〜たとえば僕が死んだら」ではないか。許せないな鴨田を殺そう。ここで巻くんのスイッチが入る。巻くんが一番恐ろしい人に見える。そしてその後ろでエロッチの異様さが露見しはじめる。


いや、自殺未遂の原因をつくったのは…この中にいる。紺ちゃんが言いはじめる。そして「エアーでなく殺してやりたい」と今度は紺ちゃんの恐ろしさがあらわれる。


それに応えて西くんがきっかけを話ていく…鴨田の虐待が原因ではない…エロッチが金を巻き上げていたせいだ…チャックがいじめのターゲットをそらすためだ…巻くんがしごきをしていたから…紺ちゃんが無視をしていたから…西くんが逃げ道を与えなかったから…ここの展開のリズムはすごい。悪者がくるくるとかわる、とても舞台らしい演出だと思う。


この部分は社会問題というかイジメを多角的に見たような、「ライフ」のような「告白」のような印象。
とん平の手紙、そのあとで巻くんにはいった電話でまた物語はうごく。
巻が俺は嫌われてた!!とキレだす。プライドの高い人間がそれを言い出すにはとても勇気がいることだろう。俺はチャックがうらやましかった!いじられるのと愛されるのはたしかに同じようにうつる、本人以外には。


エロッチが紺ちゃんの言葉で笑い出す。才能という「隠れた自分自身」と向き合って戦ってきた苦悩は、そこに向き合わなかった人間には理解されない。
エロッチがからんだ紺ちゃんが独白をはじめる。同じ日々のループにおかしくなっていく。今の日本人が落ち入ってしまう。まさに現代病のような独白。(ちなみに私は紺ちゃんが一番怖い)
(ここまで自分の弱さを語り出すというごくせんの中でくらいででてきたやつだ!みたいな展開。)
3人がかかえる自分の失敗とそれにプライドを打ち砕かれたことからの死にたさにチャックがキレる。
本当に死ぬかもしれない人間の前で死にたいなんていうな!!(ここでチャックはとても強い子なんだね、と私はおもった。)
ここで物語の基盤だったはずの「チャックのたてこもり」が崩される。竜宮に来たことがなかったのはチャックではなく西くんだった。
すべては西くんの代わりにしたことだった。周りに気を遣ってしまう西くんの独白がここでやっと始まる。
「とん平にしたことをわすれるな」
ここで西くんが怖い人になっていく。命があやうい人間の精神の危うさがでてくる。


しかし独白が終わって物語は終焉にむかいはじめ…たはずだったが、ぜんぜん覚えていないはずのエロッチが記憶をとりもどしはじめてやっとここで何度目だよ!とも思うが本当の「転」の展開がくる。


オセロの黒だった盤面が白へとぱたぱたとかわっていくような、謎解きの展開。
ああ、よかった、よかった、どんどんハッピーエンドへと向かう。
そして最後の最後には一番気がかりであったとん平の今もハッピーエンドになる。


最後は見事さで大きな拍手を送ったが、
ふと胸に降りてくるものがある

「舞台はこれで終わったけれど…?」

この5人はそれぞれが現代の人間の化身であると思う。


例えば私は、デザイン科からCG科へいき、エロッチのように才能と向き合ってうちひしがれた日々があった。巻くんのようにあだ名のない青春時代を過ごした。チャックのようにずっと同じ街の同じ家で暮らしている。紺ちゃんのように、毎日同じように過ごして気が狂いそうになったことがあり、西くんのように波風を立てないようにして暮らし、病気の苦しみに襲われたこともあった。


5人全員のどこかの部分に共感を覚えた。


そしてその問題はこの舞台の上でもなんら解決はされていないのだ。
そして解決されたとん平の問題(いじめ問題)も舞台であるからこのエンドを迎えただけなのだ。
現実にはそんな解決は怒らない。


悪童は見事なエンターテイメントを見せながら、自分の身の内にある見たくない現実を投げかけていった。